はじめに―神戸から台北へ、職人文化を世界に届ける挑戦
神戸市西区に本社を構える私たち株式会社四方継は、1994年の創業以来、「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」という理念のもと、受け継がれる価値のある丁寧なものづくりを追求してきました。
2014年、私たちは大きな決断をしました。それは、台北に「菫菫室内装修設計工程有限公司」という法人を設立し、海外での本格的な事業展開をスタートさせることでした。同時に、この台北拠点を中心に職人支援事業も始動させました。
なぜ私たちは海を越えて台北に進出したのか。それは単なる事業拡大ではありません。日本の高度な職人技術と丁寧なものづくり文化を国際的に展開し、職人という専門職の価値を世界規模で高めたいという強い想いがありました。
本記事では、この台北進出の背景と意義、そしてそこから生まれた職人支援事業について、当社の歩みとともに詳しくお伝えします。
海外進出の土台となった20年間の積み重ね
大工集団から始まった私たちの原点
台北での法人設立は、突然決まったわけではありません。それを可能にしたのは、創業以来20年間にわたって積み重ねてきた確かな経験と技術力でした。
私たちの歴史は、1994年に神戸市西区大津和で大工集団「高橋組」として創業したことに始まります。この時期、私たちは現場での施工経験を徹底的に積み重ねました。職人として木材と向き合い、お客様の要望を形にする日々は、後の海外展開の基礎となる技術力の源泉となりました。
2002年には有限会社すみれ建築工房として法人化し、新築工事の受注を本格的に開始しました。翌2003年にはリフォーム事業に進出します。ここで大きな転機が訪れました。職人による直接施工が多くのお客様から高い評価をいただき、元請中心の営業スタイルへと転換したのです。
元請中心の営業とは、下請けとして他社の指示で動くのではなく、お客様と直接向き合い、設計から施工まで責任を持って行うスタイルです。これにより、職人たちは技術だけでなく、コスト管理やお客様とのコミュニケーション能力といった経営的な視点も求められるようになりました。
設計力と技術力の融合
2005年、私たちは二級建築士設計事務所の登録を行い、設計業務を本格的に開始しました。これにより、職人としての施工技術と建築士としての設計専門性を一つの組織の中で融合させることができたのです。
この融合は、革新的な住宅商品の開発にもつながりました。2007年には規格化注文住宅「sumika(スミカ)」の開発・販売事業をスタート。そして2012年には、高性能ゼロエネルギー住宅「SUMIKA-ZERO(スミカゼロ)」が国土交通省のゼロエネルギー推進化住宅に認定されるという快挙を成し遂げました。
SUMIKA-ZEROは、高い断熱性能と高効率設備により一次エネルギー消費量を大幅に削減し、太陽光発電なども取り入れた環境配慮型の住宅です。当時から環境性能への意識が高まりつつあった時代において、私たちは最先端の技術に対応できる専門性を確立していました。
これらの国内での実績が、海外進出の確かな土台となったのです。
職人起業塾の開講―国際的視野を持つ人材育成へ
技術だけでなく経営視点を持つ職人を育てる
海外での事業展開を成功させるには、高度な技術だけでは不十分です。国際的なビジネス環境で通用するセンスを持った人材が必要でした。
そこで私たちは2013年、台北進出の前年に「職人起業塾」を開講しました。この塾の目的は、社員大工のキャリアアップと地域の職人の活性化です。特に重視したのが、イントラプレナーシップ、つまり社内起業家精神の醸成でした。
イントラプレナーシップとは、組織の中にいながら起業家のように自律的に考え行動する姿勢のことです。職人が単に指示された仕事をこなすのではなく、現場の品質、コスト、納期に自ら責任を持ち、お客様の満足を第一に考えて動ける人材を育てることを目指しました。
この研修では、技術研修だけでなく、原価管理の方法、お客様とのコミュニケーション術、プロジェクトマネジメントの基礎なども学びます。職人が経営視点を持つことで、国内はもちろん、文化や商習慣が異なる海外のプロジェクトでも対応できるプロフェッショナル集団が形成されていきました。
この人材育成の基盤があったからこそ、翌年の台北進出が現実のものとなったのです。
2014年、台北での法人設立と職人支援事業のスタート
台北という場所を選んだ理由
2014年、私たちは台北に「菫菫室内装修設計工程有限公司」を設立しました。なぜ台北だったのか。それにはいくつかの理由があります。
まず、台湾は親日的で日本の文化や品質に対する理解が深い地域です。日本の丁寧なものづくりや高品質な施工技術への需要が高く、私たちの強みを活かせる市場でした。また、アジアの主要都市として経済成長も著しく、建築・内装分野での需要も拡大していました。
さらに、地理的にも日本から近く、言語や商習慣の面でも比較的参入しやすい環境でした。初めての海外進出先として、リスクを抑えながらも十分な成長可能性がある市場だったのです。
現地に根を下ろす本格的な海外展開
この法人設立は、単に日本から職人を派遣して仕事をするというレベルではありませんでした。現地に法人を構え、現地の法律や商習慣に則って事業を展開する本格的な海外進出です。
私たちは現地のスタッフを雇用し、台湾の建築基準や安全規則を学び、現地の協力会社とのネットワークを構築していきました。日本の高い施工基準を保ちながらも、現地の文化や商習慣を尊重し、双方にとって良い関係を築くことを大切にしました。
これは「四方良し」の理念を国際的なスケールで実現する取り組みでもありました。作り手である日本の職人、住まい手である台湾のお客様、現地の協力会社、そして台湾の地域社会、すべてが良い関係でつながることを目指したのです。
職人支援事業の本格始動
台北での法人設立と同時に、職人支援事業もスタートしました。この事業は、前年に国内で開講した職人起業塾の精神と深く結びついています。
職人支援事業の狙いは二つありました。一つは、日本の職人たちにグローバルな環境で技術を磨く機会を提供すること。海外のプロジェクトに携わることで、異なる建材や工法に触れ、国際的な視野を持つプロフェッショナルとして成長できます。
もう一つは、台湾の建設・内装業界に対して、日本の高度な職人技術を提供し、現地の品質向上に貢献することでした。私たちの技術を学びたいという現地の職人たちとも交流し、技術指導やワークショップなども行いました。
この活動を通じて、職人という専門職の価値を国際的に高めることができると考えたのです。職人は単なる労働力ではなく、高度な技術と知識を持つプロフェッショナルであることを、海外の市場でも証明したいという想いがありました。
海外経験が証明した私たちの専門性と活動範囲
国際的なネットワークの構築
台北での活動を通じて、私たちは国際的なネットワークを構築することができました。現地の設計事務所、材料供給業者、施工会社とのつながりは、その後の私たちの事業にも大きな影響を与えています。
例えば、近年私たちが愛知県で進めている歯科クリニックのプロジェクトでは、スイスのN11 Architektenという海外の設計事務所と協働しています。天然乾燥の愛知県産杉材を使用し、KANSO構法という特殊な構法で建築を進めていますが、このような国際的な協業が実現できたのも、台北での経験で培った国際的な視野とコミュニケーション能力があったからこそです。
神戸から愛知、そして台北へ。私たちの活動範囲は地域工務店の枠を超え、日本の高品質な建築技術と職人文化を国内外に展開する国際的な企業へと成長していきました。
職人育成における信頼性の向上
台北での職人支援事業の経験は、国内での職人育成事業の信頼性をさらに高めることにつながりました。
2015年には、職人起業塾が「住環境に食、学びを通して日々の暮らしを豊かにしよう!」をコンセプトとする「すみれ暮らしの学校」を開講しました(後に「つない堂」の活動に移行)。学びの領域を技術研修だけでなく、暮らし全般へと拡大したのです。
そして2016年、職人起業塾は一般社団法人職人起業塾として法人化され、全国展開を果たしました。これは、海外での実践経験を国内の教育プログラムにフィードバックし、その専門性が全国の業界で認められたことを意味します。
私たちが提供する研修プログラムは、国内だけでなく世界でも通用するプロフェッショナルを育成できるという強い信頼を得ることができたのです。
海外経験が生み出した継続的な学びと未来への投資
CSVモデルと持続可能なビジネスへの探求
台北でのグローバルな経験は、私たちに社会の大きな変化や持続可能性への意識をもたらしました。この学びは現在も続く「継塾」(職人起業塾の継続的な研修)のテーマ設定にも反映されています。
例えば、令和7年6月の継塾では、CSVモデル(社会課題解決型ビジネス)に焦点を合わせたダイアログを実施しました。CSVとはCreating Shared Valueの略で、企業が社会課題の解決と経済的価値の創造を同時に実現するビジネスモデルのことです。
また、令和7年3月の継塾では「持続可能なビジネスモデル探求」をテーマに掲げ、全ての成果の元になる理にじっくり向き合う機会を設けました。国際的な視野を持つことで、地域社会の課題だけでなく、グローバルなビジネス環境の変化にも対応できる力を養っているのです。
実際、私たちは能登半島輪島市黒島地区の伝統的建築物修復レポートへの参加や、神戸市西区での地域活性化イベントへの協力など、地域社会との関わりも大切にしています。海外での経験が、国内での地域貢献活動にも良い影響を与えているのです。
マイスター高等学院の設立―次世代への技術継承
台北での事業を通じて職人技術の国際的な価値を再認識したことは、国内の職人育成へのコミットメントをさらに深めました。
2023年、私たちは日本の職人不足という構造的な課題に本格的に取り組むため、「マイスター高等学院」を設立・開校しました。これは高校卒業の資格を取りながら、大工など建設業における職人としての技術を身につけることができる通信制高校です。
代表の高橋剛志は「モノづくりの担い手を子供の憧れの職業にすることを目指す」という強い決意を持っています。職人という仕事が、若者にとって魅力的で誇りを持てる職業になるよう、教育環境を整えることに力を注いでいます。
この教育事業は、2014年の台北での職人支援事業の延長線上にあります。国際的な経験を持つ職人を育て、日本の高度な職人技術を次世代へと確実に継承していく。これが私たちの使命だと考えています。
まとめ―世界基準の品質を日本のお客様にも
2014年の台北における菫菫室内装修設計工程有限公司の設立と職人支援事業のスタートは、株式会社四方継が地域の工務店から国際的な企業へと成長する重要な一歩でした。
この海外進出は、単に市場を広げるためだけではありませんでした。日本の職人文化と高度な建築技術を国際的に展開し、職人たちにグローバルな経験と視野を提供することで、彼らのキャリアを強化し、職人という専門職の価値を高めるための戦略的な取り組みだったのです。
台北での経験は、私たちの技術と人材育成システムが世界基準であることを証明しました。そして、その世界基準の品質を、神戸をはじめとする日本国内のお客様にも提供し続けています。
私たちの理念「四方良し」は、国内の住まい手だけでなく、台湾の協力会社や現地社会、そして国際的に活躍する日本の職人という作り手を含めた、より広い範囲での持続可能な価値創造を目指しています。
これからも私たち株式会社四方継は、受け継がれる価値のある丁寧なものづくりを追求し、職人技術を次世代へと確実に継承していきます。海を越えた挑戦で学んだことを活かし、お客様に最高の品質と満足をお届けすることをお約束します。
