はじめに
神戸を拠点に活動する株式会社四方継は、単なる建築会社ではありません。私たちは、建物を建てるだけでなく、地域社会全体の未来を見据えた事業を展開しています。
そのすべての活動の根幹にあるのが、企業理念「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」です。この理念は、2020年に創立20周年を機に、旧社名「有限会社すみれ建築工房」から「株式会社四方継」へと社名変更した際に明確に打ち出されました。
本記事では、この理念が具体的に何を意味し、私たちがどのように「地域を守り次世代に継なげる事業」を実践しているのかを、詳しくご紹介します。
第1章：理念の核心「四方良し」とは何か
四つのステークホルダーへの責任
私たちの理念における「四方」とは、以下の四者を指します。
- 作り手（私たち職人や技術者）
- 住み手（お客様）
- 協力会社（共に働く仲間）
- 地域社会（私たちが暮らす街）
一般的なビジネスでは、企業の利益や顧客満足度だけが重視されがちです。しかし私たちは、この四者すべてが満たされ、喜びを共有できる持続可能なビジネスモデルを追求しています。
例えば、住宅リフォームのプロジェクトでは、お客様の満足はもちろん、職人が誇りを持って働ける環境、協力会社との公正な取引、そして地域の景観や環境への配慮まで、すべてを考慮します。どれか一つでも欠けてしまえば、真の意味での「良し」とは言えないのです。
社名変更に込められた使命
2020年の社名変更は、単なるブランドチェンジではありませんでした。「四方継」という名前には、「継ぐ」という動詞が含まれています。これは、私たちが次世代へと確実に引き継ぐべきものがあるという強い決意の表れです。
継ぐべき対象は、技術や建物だけではありません。未来の担い手である子どもたち、安心安全な地域社会、豊かで持続可能な生活様式、そして丁寧なものづくりの文化。これらすべてを次の世代へと継なげることが、私たちの使命なのです。
この使命を果たすため、私たちは「つむぎ建築舎」と「つない堂」という二つの柱を確立しました。それぞれが「受け継がれる価値のある丁寧なものづくり」と「人を繋ぎ、ご縁を紡ぎ、いい街を継ぐ」というビジョンを掲げ、理念の実現に向けて日々活動しています。
第2章：建築を通じた「暮らし」と「文化」の継承
創業からの経験が支える丁寧なものづくり
私たちの歴史は、1994年に神戸で創業された大工集団「高橋組」時代に遡ります。職人としての現場経験を積み重ねる中で、2003年にリフォーム事業へと進出しました。
この時、大きな転機が訪れます。職人による直接施工が予想以上の反響を呼び、元請中心の営業スタイルへと転換したのです。お客様は、技術者の顔が見える透明性と、直接保証される高品質を強く求めていることがわかりました。
現在、つむぎ建築舎では、女性建築設計士と大工による細やかなコミュニケーションを大切にしています。専門家としての提案から計画、施工プロセスまで、すべてを「見える化」することで、お客様に「見て安心、さわって安心」を感じていただいています。
これは単なるサービスではありません。透明性の高いプロセスを通じて、世代を超えて受け継がれる価値ある建築を実現しているのです。
未来の暮らしを継ぐ専門技術
暮らしの継承とは、家を長持ちさせるだけではありません。住まい手が持続可能な豊かさを享受できることを意味します。
私たちが推進しているのが、GX志向型住宅です。GXとは「グリーントランスフォーメーション」の略で、温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立を実現する取り組みを指します。
具体的には、高い断熱性能と高効率設備の導入により、一次エネルギー消費量を削減します。さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーを取り入れることで、住み手の未来の経済的な利益と、環境への責任を両立させています。
また、私たちは常に技術の最前線に立ち続けています。日本国内でも3棟目となる新しい構法に挑戦したり、愛知県の歯科クリニックでは、スイスのN11 Architektenといった海外の設計事務所と協働し、KANSO構法を用いるなど、国際的な知見を積極的に取り入れています。
これらの挑戦は、建築技術を「文化」として深化させ、次世代へと継承していくための重要な取り組みなのです。
第3章：「街」を継ぐ地域活動
検索不要の安心安全な地域社会を作る
つない堂のビジョンは、「信頼の輪を広げ、検索不要の安心安全な地域社会を作る」ことです。
現代社会では、何か困ったことがあれば、まずインターネットで検索するのが当たり前になっています。しかし、検索結果が必ずしも信頼できる情報とは限りません。
私たちが目指すのは、インターネット検索に頼らずとも、あらゆる分野で卓越した知見を持つ「人」「事業所」「サービス」を発掘し、リアルなネットワークを構築することです。地域の安心な循環型社会のハブとなることで、誰もが安心して暮らせる街を実現したいと考えています。
実際に、私たちは行政とも深く連携しています。西区役所主催の「エニシミーツ」に参加したり、「伊川リバーフェスタ」や「西区もくいく」にも出展しました。「エニシミーツ」の名前は、E-NISHI（いい西）と縁（エニシ）を掛けており、まさに私たちのビジョンと一致しています。
これらの活動を通じて、私たちは地域社会における信頼のハブとしての役割を果たしています。
未来の担い手を育てる学習支援
「人」の継承は、地域社会への最大の投資です。私たちは、地域の子どもたちの学びを支えるため、しずく学習塾の運営支援を積極的に行っています。
この塾は地域からの信頼を得て、募集人数いっぱいになるほどの盛況ぶりです。しかし、私たちが提供したいのは、単なる学力向上だけではありません。
2025年3月には卒業パーティーを開催し、夏には「ちびっこ応援！木工教室」を企画しています。こうしたイベントを通じて、子どもたちに「人生を変える体験」を提供することを大切にしています。
例えば、木工教室では、職人の指導のもと、実際に木材を使って作品を作ります。完成した時の達成感や、ものづくりの楽しさを体験することで、子どもたちの将来の選択肢が広がるかもしれません。
地域社会全体で子どもたちの成長を応援する。これこそが、未来へと「人」を継ぐ私たちの取り組みなのです。
第4章：「作り手」を育てる独自システム
職人起業塾による次世代育成
理念の核である「作り手」の質の向上と「文化」の確実な継承。これを保証するのが、私たち独自の育成システムです。
2013年に職人起業塾を開講して以来、私たちは次世代の職人育成に真剣に取り組んでいます。そして2016年には、一般社団法人職人起業塾として法人化し、全国展開を果たしました。
この職人起業塾の特徴は、単なる独立開業支援ではないという点です。私たちが重視しているのは、イントラプレナーシップ、つまり社内起業家精神の醸成です。
イントラプレナーシップとは、組織に所属しながらも、起業家のような革新的な発想と行動力を持つことを意味します。技術者であっても、経営視点、コスト意識、そして地域社会への貢献を意識したマインドセットを持つことが重要なのです。
継続的な研修「継塾」では、令和7年3月に「持続可能なビジネスモデル探求」をテーマに取り上げました。さらに令和7年6月には、有限会社森衛生の川内氏を招き、「今の時代に合わせたCSVモデルに焦点を合わせる」ダイアログを実施する予定です。
CSVモデルとは、「Creating Shared Value（共有価値の創造）」の略で、社会課題の解決と企業の利益創出を両立させるビジネスモデルを指します。作り手が社会課題の解決にコミットする意識を養うことで、理念の実現を確かなものにしています。
マイスター高等学院の挑戦
理念にある「人」と「文化」の継承への最大のコミットメントが、2023年に設立・開校したマイスター高等学院です。
現代社会では、深刻な職人不足が問題となっています。一方で、通常の高校では見過ごされてしまう才能を持つ生徒たちも多く存在します。そうした生徒たちの才能を見つけ、開花させる学校。それがマイスター高等学院です。
この学校では、高校卒業の資格を取りながら、大工など建設業における「職人」としての技術を身につけることができます。座学だけでなく、実践的な技術指導を通じて、若者たちが誇りを持てる職人へと成長していくのです。
代表者の高橋剛志は、「モノづくりの担い手を子供の憧れの職業にする」という強い志を持っています。かつて職人は尊敬される職業でした。その誇りを取り戻し、建築業界の未来を担う人材を育成することで、理念の実現を確かなものにしています。
マイスター高等学院は、単なる教育機関ではありません。それは、私たちが本気で「人」と「文化」を次世代へ継ごうとしている証なのです。
第5章：理念で統合された私たちの事業
すべては理念実現のために
ここまで、つむぎ建築舎の家づくり、つない堂の地域活動、職人起業塾やマイスター高等学院の人材育成について説明してきました。
これらは、一見すると別々の事業に見えるかもしれません。しかし実際には、すべてが「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」という理念のもとに完全に統合されています。
つむぎ建築舎による革新的な家づくりは、「住み手」の満足と「文化」の継承を担っています。つない堂による地域活動は、「地域社会」の発展と「街」の健全な未来を担っています。そして独自の育成システムは、「作り手」の質と「人」の未来を保証しています。
それぞれの事業が、理念の異なる側面を実現しながら、全体として「四方良し」を達成する。これが、株式会社四方継の事業戦略なのです。
地域を守り次世代に継なげる
私たちは、1994年の創業以来、神戸の地で確かな経験を積み重ねてきました。2020年の社名変更は、その経験と専門性を基盤に、より明確に未来への責任を果たすという決意の表れでした。
「地域を守り次世代に継なげる事業」という使命は、決して容易ではありません。短期的な利益を追求するだけなら、もっと簡単な方法があるでしょう。
しかし私たちは、四方すべてが満足する持続可能なビジネスモデルにこだわり続けています。それは、真に価値ある仕事とは、関わるすべての人々に喜びをもたらし、未来世代にも誇れるものでなければならないと信じているからです。
GX志向型住宅による環境への配慮、海外の設計事務所との協働による技術革新、地域の子どもたちへの学習支援、そして次世代の職人育成。これらすべての活動が、私たちの理念を具現化しています。
おわりに
株式会社四方継の理念「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」は、単なるスローガンではありません。それは、私たちのすべての事業活動を導く羅針盤であり、日々の業務の中で常に立ち返るべき原点なのです。
私たちは、この理念のもとで、地域社会に根ざした持続可能な事業を展開し続けます。作り手、住み手、協力会社、そして地域社会。この四者すべてが笑顔になれる未来を創造すること。それが、私たち株式会社四方継の揺るぎない使命です。
神戸の地から、次世代へと確実に継なげるべき価値を守り、育てていく。その挑戦は、これからも続いていきます。