社名「四方継」に込めた想い──人、街、暮らし、文化を次世代へ

はじめに

私たち株式会社四方継は、1994年に大工集団として創業し、以来26年にわたり地域の住まいづくりに携わってまいりました。2020年、創立20周年を迎えた節目に、「有限会社すみれ建築工房」から「株式会社四方継(しほうつぎ)」へと社名を変更いたしました。

この社名変更は、単なる組織の刷新ではありません。私たちがこれから目指す未来、すなわち「人、街、暮らし、文化を継ぎ、四方良しを実現する」という理念を、社名そのものに刻み込んだ決意表明なのです。

今回のブログでは、なぜ私たちがこの理念にこだわり、どのように事業として展開しているのかを、具体的な実績と活動を交えながらお伝えします。

四方良しとは何か──関わる全ての人の幸せを目指して

近江商人の三方よしを超えて

「三方よし」という言葉をご存じでしょうか。これは近江商人が大切にしてきた「売り手よし、買い手よし、世間よし」という商いの精神です。私たちは、この考え方をさらに発展させ、建築に携わる者として「四方良し」という概念を掲げています。

建築は、一人で完結する仕事ではありません。多くの人々が関わり、長い年月をかけて地域に根付いていくものです。だからこそ、関わる全ての人々が幸福であるべきだと考えました。

四方とは誰のことか

私たちが定義する「四方」とは、以下の四者を指します。

第一に「作り手」です。これは私たち自身、そして協力会社の職人や技術者を指します。ものづくりに携わる人々が誇りを持ち、健全な環境で働けることが、良い建築の基盤となります。

第二に「住み手」です。お客様とそのご家族、そして次の世代まで含みます。建物は何十年も使われるものですから、今住む方だけでなく、将来住む方々の暮らしまで考える必要があります。

第三に「協力会社」です。共にものづくりを支える全てのパートナーを指します。建築は多くの専門業者の連携によって成り立っています。全てのパートナーが対等な関係で、互いに尊重し合うことが重要です。

第四に「地域社会」です。私たちが事業を営む地域、そして日本社会全体を指します。建物は地域の景観を構成し、文化を形作ります。地域に貢献し、社会に良い影響を与えることも、私たちの責任です。

この四者が健全な関係性を保ち、共に繁栄していくこと。それが「四方良し」の本質であり、社名変更に込めた最大の想いなのです。

「継ぐ」ことに託された二つのビジョン

「四方良し」を実現するために、私たちは二つの明確なビジョンを掲げています。

一つ目は「受け継がれる価値のある丁寧なものづくり」です。流行に流されるのではなく、世代を超えて大切にされる建物を創ること。100年後も「この家に住んでよかった」と思っていただける建築を目指しています。

二つ目は「人を繋ぎ、ご縁を紡ぎ、いい街を継ぐ」です。建築をハブとして、地域に信頼のネットワークを築くこと。私たちは単なる建設会社ではなく、地域の未来を創る一員でありたいと考えています。

暮らしと文化を継ぐ建築デザイン

未来の暮らしを支える高性能住宅

私たちが目指すのは、ただ頑丈な家を建てることではありません。住まい手の生活を豊かにし、環境にも配慮した、持続可能な「暮らし」を継承することです。

その象徴が、GX志向型住宅の推進です。GXとはグリーントランスフォーメーションの略で、環境と経済成長を両立させる取り組みを指します。具体的には、高い断熱性能と高効率設備を導入することで、エネルギー消費を抑え、温室効果ガスの排出を削減します。

私たちは2012年、高性能ゼロエネルギー住宅「SUMIKA-ZERO(スミカゼロ)」を開発しました。これは国土交通省のゼロエネルギー推進化住宅に認定された実績を持ち、私たちが長年にわたり環境技術の最前線に立ってきた証です。

しかし、どんなに優れた設計でも、施工が疎かでは意味がありません。たとえば断熱気密工事では、すき間から空気が漏れないよう、一つ一つ丁寧に施工することが何より重要です。見えない部分だからこそ、手を抜かない。それが私たちのこだわりです。

ライフステージに寄り添う柔軟な設計

人の暮らしは変化していきます。子育て世代には子育てに適した間取りを、共働き世帯には家事がラクになる動線を、老後を見据えた方には平屋の計画を。住まい手の人生に寄り添い、年齢を重ねても安心して住み続けられる提案を行っています。

あるお客様からワークデスクの要望をいただいた際、私たちは3×6判の合板1枚から、なるべく無駄のないようコンパクトなデスクを製作しました。こうしたきめ細やかなカスタムメイドも、私たちの強みです。既製品では叶わない、その家族だけの暮らしを実現するお手伝いをしています。

伝統と革新の融合

文化を継ぐとは、伝統的な技術を守りながら、新しい技術にも挑戦することだと考えています。

現在、愛知県で工事中の歯科クリニックでは、内部に天然乾燥の愛知県産杉材を使用しています。自然素材ならではの温もりと香りが空間を満たし、まるで木の中に入ったような感覚になる美しい空間が生まれています。環境負荷が低く、健康的な暮らしを次世代に継ぐことにも繋がります。

左官工事では、柱の両側に細い木を細かいピッチで留める「木摺り(きずり)」という伝統工法も取り入れています。見えない部分だからこそ、手間をかける。これが技術文化の継承です。

一方で、新しい技術の探求にも積極的です。現在進行中のプロジェクトでは、まだ一般的には広く知られていない「KANSO」という構法を採用しています。これは日本国内でも3棟目となる取り組みで、スイスの建築家との連携も含まれています。

私たちは女性建築設計士と大工による細やかなコミュニケーションを通じて、伝統と革新を融合させた、世代を超えて受け継がれる価値ある建築を実現しています。

人を育て、未来へ繋ぐ

職人起業塾──イントラプレナーシップの醸成

「四方継」の理念において、「人」の育成は最も重要な柱の一つです。建築業界全体が職人不足に悩む中、私たちは未来の担い手を育てることに注力してきました。

2013年に開講した「職人起業塾」は、社員大工のキャリアアップと地域の職人の活性化を目的に始まり、2016年に一般社団法人として法人化し、全国展開されています。

この塾の重要な目的は、単に職人の独立開業を進めることではありません。「イントラプレナーシップ」、つまり社内起業家精神の醸成にあります。

イントラプレナーシップとは、組織内で自ら課題を発見し、解決し、新たな価値を創造できる主体的な姿勢を指します。この精神を持つ職人は、現場で発生する様々な状況に柔軟に対応し、専門家としての提案力を発揮します。

たとえば地鎮祭で、晴れ晴れとした気持ちを大切にする感性を持つこと。計画から施工プロセスを見える化し、住まい手に安心感を提供すること。こうした細やかな心配りが、信頼される職人を育てます。

私たちは「人生を変える体験が人生を変える」という理念のもと、ものづくりの担い手を子供の憧れの職業にすることを目指しています。

マイスター高等学院──才能を開花させる場所

日本の建築業界における職人不足は、年々深刻化しています。この状況に歯止めをかけ、将来の担い手を育成するため、私たちは2023年4月に「マイスター高等学院」を設立・開校しました。

これは、高校卒業の資格を取りながら、大工など建設業における職人としての技術を身につけることのできる通信制高校です。

通常の高校教育では見過ごされがちな、ものづくりの才能を持つ若者たち。彼らの隠れた才能を見つけ、開花させることが、この学院の目的です。若者が安心してキャリアをスタートできる道筋を作ることで、業界全体の未来を明るくしたいと考えています。

街を継ぐ活動──信頼のネットワークづくり

つない堂が目指す循環型地域社会

私たちは建築事業を通じて得た利益や知見を、積極的に地域に還元しています。「いい街」を次世代に継ぐことは、「四方継」の理念の核心です。

社名変更を機に、「すみれ暮らしの学校」の活動を発展的に移行させた「つない堂」は、この「街を継ぐ」活動の中核を担っています。

つない堂は、あらゆる分野で卓越した知見を持つ「人」「事業所」「サービス」を発掘し、リアルなネットワークを構築するメディアです。その目的は、インターネット検索を必要としない、安心安全な循環地域型社会のハブとなることです。

現代社会では、インターネットで情報を探すことが当たり前になっています。しかし、そこには信頼性の問題があります。つない堂では、私たちが直接会い、信頼できると判断した人や事業所を紹介することで、顔の見える安心なネットワークを作っています。

地域に根差した具体的な活動

私たちは地域主催のイベントに積極的に参加しています。2025年9月には「伊川リバーフェスタ」や「西区もくいく」に参加し、2025年1月には西区役所主催の「エニシミーツ」に参加しました。こうした活動を通じて、地域の方々との繋がりを深めています。

また、地域の子どもたちの学びを支えるため、「しずく学習塾」の運営支援も行っています。卒業パーティーの開催、新年度対応、進級ワークショップなど、子どもたちの成長を見守る活動に携わっています。

文化財の継承にも力を入れています。「つないどう?」の特集では、「能登半島輪島市黒島地区の伝統的建築物修復レポート」など、伝統的な建築文化の継承に関する重要な活動を取り上げ、多くの方々と文化を継ぐ意識を共有しています。

継塾──社会課題解決型ビジネスの探求

偶数月に開催される「継塾」では、建築の枠を超えた活動を行っています。たとえばゴミの収集運搬業を営む企業のビジネスモデル刷新など、CSV(社会課題解決型ビジネス)に焦点を合わせたダイアログを実施しています。

CSVとは、Creating Shared Valueの略で、企業が社会課題を解決しながら利益も生み出すビジネスモデルのことです。地域全体の持続可能性を探求し、共に学び合うことで、より良い未来を創造しようとしています。

社名「四方継」が意味するもの

未来への契約書として

2020年の社名変更は、過去20年以上の経験と実績を土台に、私たちがこれから数十年かけて達成すべき未来への「契約書」です。

SUMIKA-ZEROの開発、職人起業塾の開講、マイスター高等学院の設立。これらは全て、「人、街、暮らし、文化を継ぐ」という理念に基づいた活動です。

株式会社四方継は、単なる建設会社ではありません。私たちが目指すのは、住まい手が長期的に安心して暮らせる高性能な建築を提供するだけでなく、信頼と活気に満ちた地域社会を創り出すことです。

通し柱のように強く、美しく

私たちの理念を一つの建築にたとえるなら、それは「通し柱」です。

通し柱とは、地中深くから屋根まで一本で貫く柱のこと。一般的な建築では、世代が変わるたびに改修が必要ですが、通し柱は建物全体をしっかりと支え続けます。

「四方継」という理念は、まさにこの通し柱のようなものです。「人、街、暮らし、文化」という四つの梁をしっかりと受け止め、技術と伝統という素材で補強されています。

どんな時代の変遷や環境の変化があっても、この柱は揺るぎません。建物全体、つまり私たちの会社や地域社会が、次の世代へとその強さと美しさを継承していく。それが、社名「四方継」に込めた想いなのです。

おわりに

私たち株式会社四方継は、建築を通じて人と人を繋ぎ、文化を継承し、地域の未来を創る。そんな会社でありたいと願っています。

「四方良し」の循環は、一朝一夕には実現しません。しかし、一軒一軒の建物を丁寧に作り、一人一人の職人を大切に育て、一つ一つの地域活動に誠実に取り組むことで、必ず実現できると信じています。

この社名に込められた理念こそが、私たちがお客様に提供する、世代を超えて受け継がれる価値の、最も強力な保証です。

これからも、「人、街、暮らし、文化を継ぎ、四方良しを実現する」という理念のもと、地域の皆様と共に歩んでまいります。

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