はじめに:私たちが挑む新しい建築の形
神戸市西区でものづくり工務店「つむぎ建築舎」を運営する私たち株式会社四方継は、常に建築技術の革新に挑戦し続けています。
「人、街、暮らし、文化を継ぎ、四方良しを実現する」という企業理念のもと、作り手、住み手、協力会社、地域社会のすべてに価値をもたらす家づくりを目指してきました。
現在、私たちは新しいプロジェクトにおいて、まだ一般的には広く知られていない特殊な構法を採用した住宅の建築を進めています。この構法は、日本国内でもわずか3棟目という極めて希少な事例です。
正直に申し上げますと、始めてのことだらけで、手探りで少しずつ進めている状態です。しかし、たくさんの方々の協力をいただきながら、この未踏の領域に挑戦できることを、私たちは誇りに思っています。
本記事では、この稀有な挑戦を通じて、私たちがどのように建築における専門性を深め、お客様との信頼関係を築いているのか、具体的な取り組みと組織体制について詳しくお伝えします。
なぜ特殊な構法に挑戦するのか
従来の工法では実現できない価値を求めて
私たちが新しい構法に挑むのは、単なる技術的な冒険心からではありません。従来の技術では実現し得なかった新しい価値を、住み手の皆様にお届けしたいという強い想いがあるからです。
日本国内で3棟目という希少性は、この構法がいかに特別なものであるかを物語っています。既存の工法では解決できない課題や、より高度な性能、設計の自由度を求めるニーズに対応するために、この構法は選ばれました。
新しい構法を導入するには、既存の建築基準や法規との整合性を確認し、構造計算から材料調達、そして現場での施工技術に至るまで、極めて高度な専門知識と技術力が必要となります。
お客様の「まだ気づいていない望み」を形にする
今回のプロジェクトのお施主様は、若草物語のような賑やかで楽しい3人の女の子と、おしゃれなご夫婦です。個性が光る素敵なファミリーの理想の住まいを実現するために、特殊な構法は設計の自由度と性能を最大化する手段となります。
私たちは常に、お客様が「まだ気づいていない、知らない望み」を形にすることを大切にしています。一般的な工法では実現が難しい空間構成や、より高い性能を持つ住宅を提供することで、お客様の暮らしをより豊かなものにしたいと考えています。
高性能住宅へのこだわり
私たちは高い断熱性能と高効率設備の導入により、一次エネルギー消費量を削減し、太陽光発電などを取り入れる「GX志向型住宅」の実現を推進しています。
新しい構法も、単に珍しいというだけでなく、住み手の快適性、健康、そして持続可能性を高めることに貢献するものでなければなりません。世代を超えて受け継がれる価値ある建築を提供することが、私たちの最終的な目標です。
国際的な知見と技術の融合
KANSO構法での経験が支える挑戦
私たちは現在、愛知県で工事中の歯科クリニックのプロジェクトにおいて、KANSO構法という特殊な構法を採用しています。このプロジェクトは、もるくす建築社の建築家である佐藤さん、そしてスイスのN11 Architektenという国際的なパートナーとの連携によって実現しています。
国際的なプロジェクトや特殊な構法への継続的な挑戦経験こそが、新しい技術を国内で実現するためのノウハウを養っています。これは、日本国内3棟目という希少な構法への挑戦においても、私たちが先駆者として安心して取り組める技術的な裏付けとなっているのです。
技術探求の姿勢が生む専門性
建設業界のプロフェッショナル集団として、私たちは常に現状に満足することなく、専門性を磨き続けています。新しい構法に関する情報収集、海外の先進事例の研究、そして実際の施工を通じた技術の習得。
これらの地道な努力の積み重ねが、今回のような難易度の高いプロジェクトを可能にしています。
職人育成における私たちの取り組み
マイスター高等学院という挑戦
高度で特殊な技術を現場で具現化するには、高い技術力と強い当事者意識を持つ職人の存在が不可欠です。私たちは、この「作り手」の育成において、業界を牽引する立場にあります。
2023年4月に開校した「マイスター高等学院」は、通常の高校では隠れてしまっている才能を見つけ、開花させる学校として設立されました。この学校では、高校卒業の資格を取りながら大工など建設業における職人としての技術を身につけることができます。
これは、将来、特殊な構法にも対応できる高い能力を持った人材を育成するための、長期的な教育投資です。今すぐに成果が出るものではありませんが、10年後、20年後の建築業界を支える人材を育てることは、私たちの重要な使命だと考えています。
職人起業塾の全国展開
2013年に開講した「職人起業塾」は、2016年には一般社団法人として法人化され、全国展開に至っています。この塾の目的は、単なる独立支援ではなく、イントラプレナーシップという社内起業家精神の醸成です。
職人が技術だけでなく経営的視点と高い倫理観をもって仕事に取り組むことを促すこの取り組みは、特殊な構法という技術的なリスクを管理し、乗り越えるための組織力につながっています。
技術力だけでなく、考える力、判断する力を持った職人集団がいるからこそ、私たちは新しい挑戦を続けることができるのです。
公的認定が証明する技術力
国土交通省認定の実績
私たちが提供する技術の信頼性は、公的な認定によっても裏付けられています。2012年には、高性能ゼロエネルギー住宅「SUMIKA-ZERO(スミカゼロ)」が国土交通省のゼロエネルギー推進化住宅に認定されました。
これは、私たちが早くから高性能化に真剣に取り組み、その技術力が国の基準を満たしていることの証明です。この実績があるからこそ、新しい構法への挑戦においても、基本となる高性能住宅の技術は確実に担保されています。
未来創造企業としての認定
2022年には、一般社団法人日本未来企業研究所より「未来創造企業」として認定されました。これは、私たちの「四方良し」の理念に基づく事業運営が、持続可能で社会的な意義を持っていることの証です。
お客様や協力会社の皆様が安心して私たちの挑戦を支援できる基盤となっており、新しい構法への挑戦という冒険的なプロジェクトにおいても、信頼していただける根拠となっています。
現場での丁寧なものづくり
隠れる部分にこそ誇りを持つ
日本国内3棟目という難易度の高い構法を成功させるには、「受け継がれる価値のある丁寧なものづくり」というビジョンが、現場で徹底される必要があります。
私たちの現場では、左官の下地である「木摺り」のように、最終的に隠れてしまう部分にも、隠れてしまうのがもったいないくらいの美意識を持って、細い木を細かいピッチで留めています。
この細部へのこだわりは、お客様の目に触れない部分にこそ、最高品質を追求するという私たちの専門的な倫理観を示しています。特殊な構法であればあるほど、見えない部分の施工精度が全体の品質を左右するのです。
高精度の気密施工
高性能住宅に不可欠な断熱気密工事においては、すき間から空気が漏れないようにしっかり丁寧に施工することが重要です。特殊構法においては、通常の現場以上に精密な施工が求められますが、私たちはこの丁寧さを常に標準としています。
一つひとつの作業工程において、なぜその精度が必要なのか、どのような影響があるのかを理解した上で、職人たちは仕事に取り組んでいます。これが、新しい構法においても高い品質を維持できる秘訣です。
プロセス全体の見える化
細やかなコミュニケーション
お客様に「見て安心」していただくために、私たちはプロセス全体を可視化することを大切にしています。女性建築設計士と大工による細やかなコミュニケーションと、専門家としての提案から施工プロセスまでの見える化を徹底しています。
特殊な構法は、お客様にとって不安要素となり得ます。だからこそ、何をしているのか、なぜそうするのか、今どの段階なのかを、できるだけわかりやすく丁寧にお伝えすることを心がけています。
材木調達の透明性
スキップの家の事例では、上棟前にお施主様と材木を製材・プレカットしてくださっている「しそうの森の木」さんへ見学に行きました。これは、特殊な構法であっても、使用する材料の出所と加工プロセスを透明化し、お客様に安心を提供する私たちの手法です。
どこで育った木が、どのように加工されて、自分の家になるのか。その過程を実際に見ていただくことで、家づくりへの愛着がより深まります。
伝統的な儀式の尊重
私たちは建築吉日を選定し、神主様に四方を祓っていただく地鎮祭をおごそかに執り行っています。新しい構法を採用した現代的な家づくりであっても、日本の伝統的な精神性や儀式を大切にする姿勢を忘れません。
これは、お客様に精神的な安心感を提供するとともに、私たち自身が身を引き締め、最高の仕事をするという決意を新たにする大切な機会でもあります。
長期的な安心の約束
無料巡回メンテナンスサービス
私たちは2009年より、「すべてのお客様に生活の安心・安全を」を合言葉に、無料巡回メンテナンスサービスを本格化させています(神戸近郊に限る)。
特殊な構法の住宅であっても、その後の長期的な安心が約束されていなければ、お客様の信頼は得られません。建てて終わりではなく、建ててからが本当のお付き合いの始まりだと考えています。
この長期的なサポート体制こそが、私たちが新しい技術に挑戦する上での、お客様への信頼の保証となっています。何か困ったことがあれば、いつでも相談できる。それが、特殊な構法への挑戦においても、お客様に安心していただける大きな理由です。
協力会社との知識共有
継塾を通じた成長
「四方継」の理念は、「協力会社良し」を含んでいます。新しい構法への挑戦は、協力会社との知識と技術の共有を通じて、業界全体のレベルアップを図る機会でもあります。
偶数月に開催される研修会「継塾(つぐじゅく)」では、ホットシート形式でビジネスモデルの刷新やブラッシュアップを行っています。この場を通じて、特殊構法の実現に必要な新しい知識や、CSVモデル(社会課題解決型ビジネス)の視点など、高度な知見が共有されます。
令和7年3月の継塾では、「『常態』全ての成果の元になる理にじっくりと向き合ってみる」というテーマが掲げられました。この本質的な探求の姿勢は、特殊構法という難題を乗り越えるために必要な、基盤となる知識と哲学を共有する場となっています。
チーム全体で成長する文化
一つの会社だけでは成し遂げられないことも、協力会社の皆様と知識と技術を共有することで、実現可能になります。新しい構法への挑戦で得られた経験やノウハウは、すべての協力会社の財産となり、それが次のプロジェクトの成功につながっていくのです。
地域社会への貢献
能登半島での修復活動
私たちの大工は、能登半島輪島市黒島地区における伝統的建築物の修復活動にも、泊まり込みで携わっています。特殊構法への挑戦を通じて得られた高度な問題解決能力は、このような緊急性の高い社会貢献にも活かされます。
新しい技術への挑戦は、単に自社の技術力を高めるだけでなく、地域社会や業界全体への貢献にもつながっています。災害時の復旧活動や伝統建築の保存など、幅広い分野で私たちの専門性を活かすことができるのです。
まとめ:未来への継なぎとして
日本国内でも3棟目となる、まだ広く知られていない特殊な構法への挑戦は、私たち株式会社四方継の専門性と、建築の未来を切り拓く姿勢を象徴するプロジェクトです。
この挑戦は、国土交通省認定の高性能住宅実績と、全国展開する職人育成体制によって支えられています。そして、女性設計士と大工による細やかなコミュニケーション、プロセスの見える化、無料巡回メンテナンスといった、お客様との深い信頼関係の基盤の上に成り立っています。
始めてのことだらけで、手探りで少しずつ進めている状態ですが、たくさんの方々の協力をいただきながら、私たちはこの新しい構法を成功させ、その技術と経験を、これからの「人、街、暮らし、文化を継ぐ」家づくりに活かしてまいります。
特殊な構法への挑戦は、決して目新しさを追求するためのものではありません。お客様により良い住まいを提供し、職人の技術を次世代につなぎ、協力会社とともに成長し、地域社会に貢献する。この「四方良し」の理念を実現するための、私たちの真摯な取り組みなのです。
この新しいプロジェクトの進捗については、今後もブログやSNSを通じて随時お伝えしてまいります。私たちの挑戦に、どうぞご期待ください。
