天然乾燥の愛知県産杉材に囲まれる歯科クリニック――自然素材が紡ぐ癒やしの空間づくり

はじめに:自然素材への想いと私たちのものづくり

神戸市西区で「つむぎ建築舎」というものづくり工務店と、地域活動拠点「つない堂」を運営する私たち株式会社四方継は、「人、街、暮らし、文化を継ぎ、四方良しを実現する」という理念のもと、日々家づくりに取り組んでいます。

この理念の中心にあるのが、「受け継がれる価値のある丁寧なものづくり」です。単に建物を建てるのではなく、そこに暮らす人々の健康や快適性、そして未来の世代まで大切にできる価値を生み出すこと。それが私たちの目指す家づくりです。

現在、愛知県で進行中の歯科クリニック建設プロジェクトは、まさにこの理念を体現する現場となっています。内部全体が天然乾燥の愛知県産杉材に囲まれたこのクリニックから見えてきたのは、自然素材が持つ力と、それを活かす職人技術の素晴らしさでした。

今回は、この現場で私たちが経験したこと、感じたことを通じて、自然素材を使った空間づくりの魅力と、その背景にある専門技術についてお伝えしたいと思います。

天然乾燥杉材がつくる「木の中にいるような」心地よさ

愛知県で工事中の歯科クリニックを訪れたスタッフが、まず感じたのは「まるで自分が木の中に入ったような感覚」でした。この言葉は決して大げさではありません。内部全体が天然乾燥の愛知県産杉材で覆われた空間は、まさに森の中にいるような包まれるような安心感を与えてくれるのです。

天然乾燥の杉材には、人工乾燥材にはない独特の魅力があります。じっくりと時間をかけて乾燥させることで、木が持つ本来の香りや調湿機能が保たれます。杉特有の優しい香り、フィトンチッドと呼ばれる成分は、人の心を落ち着かせ、リラックス効果をもたらすことが知られています。

特に歯科クリニックという場所では、多くの患者様が緊張や不安を抱えて訪れます。そんな時、木に囲まれた空間が持つ癒やしの力は、医療空間として理想的な環境を生み出します。待合室に座った瞬間から感じる木の温もり、優しい香り、柔らかな質感。これらすべてが、患者様の緊張を和らげる役割を果たすのです。

また、杉材は調湿効果にも優れています。湿度が高い時には湿気を吸収し、乾燥している時には水分を放出する。この自然の調湿機能が、一年を通じて快適な室内環境を保ちます。人工的な空調だけに頼らない、自然の力を活かした空間づくり。これこそが、私たちが大切にしている考え方です。

さらに、地元の愛知県産杉材を使用することには、もう一つの大きな意味があります。地域の森林資源を活用することで、地域経済の活性化に貢献できること。そして、輸送距離を短くすることで、環境への負荷を減らせること。私たちが推進する「GX志向型住宅」の考え方にも通じる、持続可能な資源の使い方なのです。

隠れてしまうのがもったいない――木摺りに見る職人の美意識

現場を訪れた時、特に印象深かったのが「木摺り」という伝統的な左官下地の施工でした。柱の両側に細い木を細かいピッチで丁寧に留めていく。この上に左官の土が塗られるため、最終的には完全に隠れてしまう部分です。

しかし、その仕上がりの美しさには目を見張るものがありました。一本一本が正確に、そして美しく配置された木摺り。スタッフが「隠れてしまうのがもったいないくらい」と表現したその気持ちが、よく分かる仕上がりでした。

なぜ、見えなくなる部分にこれほどまでの手間をかけるのか。それは、私たちの「丁寧なものづくり」という理念そのものです。見える部分だけを綺麗にするのは、誰でもできます。しかし、完成後には決して見えない部分、誰も気づかないかもしれない部分にまで手を抜かない。その姿勢こそが、建物の本当の品質を決定づけるのです。

この木摺りの美しさは、左官工事の仕上がりにも影響します。下地が丁寧に作られていれば、その上に塗られる土も美しく仕上がります。目に見えない部分の品質が、最終的な仕上がりの質を支えているのです。

また、この伝統的な技法を継承していること自体にも意味があります。木摺りは、日本の建築文化の中で長年受け継がれてきた技術です。効率だけを求めれば、もっと簡単な方法もあるでしょう。しかし、私たちは「文化を継ぐ」という理念のもと、こうした伝統技術を大切にしています。

現場では、冷たい北風が吹く中でも、職人たちが黙々と作業を続けていました。過酷な環境下でも品質を追求する姿勢。それが、私たちの現場を支える職人たちのプロ意識です。この経験と技術の積み重ねが、お客様への信頼となり、長く愛される建物へとつながっていきます。

国際的な挑戦――KANSO構法という新しい試み

この歯科クリニックのプロジェクトは、単なる木造建築ではありません。KANSO構法という、まだ日本国内でも3棟目となる特殊な構法で進められています。この構法の実現には、もるくす建築社の建築家 佐藤さん、そしてスイスのN11 Architektenという国際的なパートナーが関わっています。

KANSO構法とは、簡潔さと機能性を追求した構造システムです。無駄を削ぎ落としながらも、構造的な強度と美しさを両立させる。その考え方は、日本の伝統的な美意識にも通じるものがあります。

国際的なプロジェクトに挑戦することは、私たちにとって大きな学びの機会でもあります。海外の建築家との協働を通じて、新しい視点や技術を取り入れることができます。同時に、日本の伝統的な職人技術の素晴らしさを再確認する機会にもなっています。

このような挑戦的なプロジェクトを進められるのは、私たちが長年培ってきた技術力と経験があるからです。新しい構法であっても、基本となるのは木を扱う技術、そして丁寧な施工です。伝統と革新を融合させながら、常に最高の品質を目指す。それが私たちのスタイルです。

また、このプロジェクトでは、サステナブルな建材を取り扱う業者との見学会も実施しました。環境への配慮や持続可能な資源活用について、積極的に情報交換を行っています。単に建物を建てるだけでなく、その過程で学び、成長し続けること。それも私たちが大切にしていることです。

職人を育てる仕組み――技術継承への取り組み

天然素材を活かした家づくりを続けていくためには、技術を持った職人の育成が欠かせません。私たちは、2023年4月に「マイスター高等学院」という通信制高校を開校しました。この学校では、高校卒業の資格を取りながら、大工など建設業における職人としての技術を身につけることができます。

若い世代に職人の技術を伝えていくこと。それは、単に技術を教えるだけではありません。木と向き合う姿勢、丁寧なものづくりの精神、そして「見えない部分にも手を抜かない」という職人の美意識。こうした心構えも含めて、次の世代に継承していく必要があります。

また、2016年には「職人起業塾」を一般社団法人として全国展開しました。この取り組みは、職人の社内起業家精神の醸成を目的としています。与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら考え、提案し、より良いものづくりを追求する。そんな意識を持った職人を育てることが、私たちの目標です。

このような教育体制があるからこそ、愛知という遠隔地での高度なプロジェクトも実現できるのです。自律的に品質と効率を追求できる職人たちが、それぞれの現場で最高の仕事をする。その積み重ねが、お客様からの信頼につながっています。

地域とのつながり――「四方良し」の実践

私たちの企業理念である「四方良し」とは、売り手良し、買い手良し、世間良しに加えて、未来良しも含めた考え方です。目の前の利益だけでなく、地域社会全体、そして未来の世代にとっても良い選択をする。それが私たちの目指す姿です。

地域活動拠点「つない堂」では、「しずく学習塾」という学習支援活動を行っています。おかげさまで募集人数いっぱいになる盛況ぶりで、地域の子どもたちとその家族から高い信頼をいただいています。また、ちびっこ向けの木工教室も開催し、木に触れる楽しさを伝えています。

こうした活動を通じて、私たちが建築現場で培った専門性や理念を、地域社会に還元しています。子どもたちが木の温もりに触れ、ものづくりの楽しさを知る。そんな経験が、未来の文化を継ぐ種になればと考えています。

また、能登半島輪島市黒島地区の重要伝統的建築物の修復にも、大工が泊まり込みで参加しました。このような文化継承への取り組みも、私たちの理念の実践です。地域の文化や伝統を守り、次の世代に継いでいく。それは、建築会社としての社会的責任でもあります。

2022年には、一般社団法人日本未来企業研究所より「未来創造企業」として認定されました。これは、私たちが「地域を守り次世代に継なげる事業を目指す」という理念のもと、社会的責任を果たしていることの証です。この認定は、私たちの活動が社会的にも評価されていることを示すものであり、さらなる責任を感じています。

お客様との信頼関係――透明性の高い家づくり

遠隔地での工事であっても、お客様との信頼関係を維持することは最優先事項です。私たちは、女性建築設計士と大工による細やかなコミュニケーションを大切にしています。専門家としての提案から計画、そして施工プロセスまで、すべてを見える化することで、お客様に安心していただける体制を整えています。

なぜ天然素材を選んだのか、KANSO構法とはどういうものなのか。専門的な内容も、分かりやすく丁寧に説明します。お客様が納得して選択できること。それが、長く愛される家づくりの第一歩だと考えています。

また、2009年より本格化した無料巡回メンテナンスサービス(神戸近郊限定)も、長期的な信頼関係を築くための取り組みです。建てて終わりではなく、建てた後も責任を持ち続ける。その姿勢が、お客様に安心を提供します。

私たちが提案する家づくりには、共働き世帯を意識した時短をかなえる工夫や、老後を見据えた平屋、室内干しメインの間取りなど、お客様のライフスタイルに寄り添った提案が含まれています。住まい手がまだ気づいていない、知らない望みを形にする。そのために、私たちは常にお客様の暮らしを想像し、提案を続けています。

おわりに:自然素材が紡ぐ未来への約束

愛知県で工事中の歯科クリニックは、天然乾燥の愛知県産杉材に囲まれた、まさに「木の中に入ったような」心地よい空間になりつつあります。この空間は、自然素材が持つ力を最大限に引き出し、利用する人々に癒やしと安らぎを提供するでしょう。

このプロジェクトには、スイスのパートナーとの国際的な協働、最終的には隠れてしまう部分にまで徹底された職人の美意識、そして持続可能な資源活用への配慮。私たちの専門性と、品質への揺るぎないこだわりが凝縮されています。

私たちは、これからも「人、街、暮らし、文化を継ぎ、四方良しを実現する」という理念のもと、自然のマテリアルを活かした家づくりを続けていきます。世代を超えて価値が受け継がれる、丁寧なものづくり。それが、私たち株式会社四方継の約束です。

天然素材に囲まれた空間で過ごす時間は、人の心と体を癒やし、豊かな暮らしを支えます。一棟一棟、丁寧に、想いを込めて。そんな家づくりを、これからも続けてまいります。

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