はじめに
私たち株式会社四方継は、「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」という理念のもと、建築事業を通じて地域社会に貢献してきました。
その根幹にあるのが、代表の高橋剛志が掲げる「人生を変える体験が人生を変える。」という教育哲学です。
私たちは単なる建築会社ではありません。モノづくりの担い手を子供の憧れの職業にすることを目指し、職人教育から次世代育成まで、建築業界の未来を見据えた人材育成に真剣に取り組んでいます。
本記事では、創業から30年以上にわたる私たちの歩みと、なぜ教育に力を入れるのか、そしてどのような取り組みを行っているのかを、具体的な事例を交えてお伝えします。
第1章:現場の経験から生まれた教育への想い
大工集団からの出発
私たち四方継の原点は、1994年に神戸市西区大津和で創業した大工集団「高橋組」にあります。
当時は大手住宅メーカーの特約工務店として、現場で汗を流しながら技術を磨く日々でした。毎日、木材と向き合い、お客様の住まいを一軒一軒丁寧に作り上げる。そんな職人としての基本を徹底的に学んだ時期です。
2002年に法人化し、高橋剛志が代表取締役に就任してからは、事業の方向性が大きく変わり始めます。
リフォーム事業への進出と現場の変化
2003年、私たちはリフォーム事業に本格的に参入しました。
これは単なる事業拡大ではなく、職人とお客様の関係性を根本から見直すきっかけとなりました。下請け中心の仕事では、職人はお客様と直接顔を合わせる機会が限られていました。しかし元請としてリフォームを手掛けるようになると、職人が直接お客様の要望を聞き、予算を相談し、仕上がりに対する喜びの声を直接受け取るようになったのです。
この変化は、職人たちに大きな気づきをもたらしました。技術力だけでは不十分で、コミュニケーション能力やコスト意識、そして何よりもお客様の人生に寄り添う姿勢が必要だということを、現場で実感したのです。
この現場での経験こそが、後に私たちが教育事業に力を入れる原点となりました。
革新的な住宅商品の開発
2007年には、規格化注文住宅「sumika(スミカ)」の開発・販売をスタートしました。
「すべての人に夢のマイホームを」という合言葉のもと、高品質な住まいを適正な価格で提供するという挑戦です。規格化することでコストを抑えながらも、お客様一人ひとりのライフスタイルに合わせたカスタマイズができる。そんな新しいモデルを追求しました。
さらに2012年には、高性能ゼロエネルギー住宅「SUMIKA-ZERO(スミカゼロ)」が国土交通省のゼロエネルギー推進化住宅に認定されています。
SUMIKA-ZEROは、高い断熱性能と高効率設備によって一次エネルギー消費量を削減し、太陽光発電を取り入れたGX志向型住宅(グリーントランスフォーメーション住宅)です。GXとは、環境に配慮しながら経済成長を実現するための変革を意味します。
これらの商品開発を通じて、私たちは技術の継承だけでなく、変化する時代に対応し社会課題を解決できる人材を育てることの重要性を痛感しました。
第2章:職人起業塾が実践する「イントラプレナーシップ」教育
職人起業塾の誕生
2013年、私たちは「職人起業塾」を開講しました。
この塾の目的は、社員大工のキャリアアップと地域の職人の活性化です。しかし一般的な起業塾とは大きく異なる点があります。それは、独立開業を推奨するのではなく、「イントラプレナーシップ」の醸成を目指している点です。
イントラプレナーシップとは、組織の中で起業家精神を発揮することを意味します。つまり、職人一人ひとりが経営者の視点を持ち、コスト意識、品質管理、顧客満足度を自律的に高めていく。そんなマインドセットを育てることに重点を置いているのです。
「作り手」から「ビジネスプロフェッショナル」へ
職人起業塾では、技術研修だけでなく、経営的な視点を養う研修を重視しています。
例えば、ある大工さんはこの塾に参加する前、「言われた通りに作業すればいい」と考えていました。しかし研修を通じて、材料コストの管理、工程の効率化、お客様へのプレゼンテーション方法などを学ぶうちに、自分の仕事が会社全体の価値創造にどう繋がっているのかを理解するようになりました。
今では現場で課題を見つけると、自ら改善提案を行い、チームを巻き込んで解決していく。そんな主体的な職人へと成長しています。
「継塾」で学ぶ持続可能なビジネスモデル
職人起業塾の研修プログラム「継塾」は、社会の変化に対応したテーマを常に取り扱っています。
2025年3月の継塾では「持続可能なビジネスモデル探求」をテーマに掲げました。単に利益を追求するだけでなく、環境や社会への配慮を含めた経営を考える。そんな深いテーマに、職人たちがじっくりと向き合いました。
また2025年6月の継塾では、ゴミの収集運搬業を営む有限会社森衛生の川内友太氏をゲストに迎え、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)モデルについて学びました。CSVとは、社会課題の解決と企業の利益を同時に実現するビジネスモデルのことです。
このように、職人起業塾では技術だけでなく、社会的な視野を持つことの重要性を伝え続けています。
全国展開への発展
私たちの教育への取り組みは、業界からも高く評価されています。
2015年にはJBN京阪神木造住宅協議会の研修事業として採用され、2016年には「一般社団法人職人起業塾」として法人化し、全国展開を果たしました。
兵庫県内だけでなく、全国の建築会社や職人たちが、私たちの教育プログラムを通じて成長しています。これは、建築業界全体の底上げに貢献できているという誇りでもあります。
第3章:マイスター高等学院という大きな挑戦
モノづくりを憧れの職業にするために
「モノづくりの担い手を子供の憧れの職業にする」
これは私たちが掲げる、最も挑戦的な目標です。
建築業界は深刻な職人不足に直面しています。若者が建築の道に進まない理由は、3K(きつい、汚い、危険)というネガティブなイメージや、将来のキャリアパスが見えにくいことなどが挙げられます。
この状況を変えるために、私たちは2023年に「マイスター高等学院」を設立しました。
マイスター高等学院の特徴
マイスター高等学院は、通信制高校として高校卒業資格を取得しながら、大工などの建設業における職人の技術を身につけることができる教育機関です。
通常の高校では見過ごされがちな、モノづくりの才能を持つ生徒たちを発掘し、その才能を開花させる場所として機能しています。
学院では、午前中に普通科目の学習を行い、午後は実際の現場で職人技術を学びます。座学だけでなく、本物の木材に触れ、道具を使い、先輩職人から直接指導を受ける。そんな実践的な教育を提供しています。
ある生徒は入学当初、「大工なんて将来性がないんじゃないか」と不安を抱いていました。しかし実際に現場で働き、お客様から「ありがとう」と言われる経験を積むうちに、「この仕事は人の人生に関わる、やりがいのある仕事だ」と気づき、目を輝かせるようになりました。
国際的な視野を育む教育
私たちの教育は、日本国内だけにとどまりません。
2014年に台北に菫菫室内装修設計工程有限公司を設立し、職人支援事業を開始した経験を活かし、若者に国際的な視野を持たせることも重視しています。
海外でのボランティア活動やネパールでの活動など、グローバルな体験を通じた学びの機会を提供しています。実際に海外で活動した若者たちは、「世界には自分たちの技術を必要としている人がたくさんいる」と実感し、職人としての誇りと使命感を深めています。
「誰が為に生きるか」というテーマを、異文化の中で考える経験は、若者たちの人生観を大きく変えるのです。
第4章:地域とともに未来を継ぐ「つない堂」の活動
つない堂が目指す地域社会
私たちは建築事業を行う「つむぎ建築舎」に加え、「つない堂」という事業を展開しています。
つない堂のビジョンは「信頼の輪を広げ、検索不要の安心安全な地域社会を作る」ことです。
現代社会では、何かを探すときにインターネットで検索するのが当たり前になりました。しかし検索結果には、信頼できる情報もあれば、そうでない情報も混在しています。つない堂は、あらゆる分野で卓越した知見を持つ「人」「事業所」「サービス」を発掘し、リアルなネットワークを構築することで、検索を必要としない安心な循環地域型社会のハブとなることを目指しています。
しずく学習塾への支援
つない堂の活動の一つに、地域の子どもたちの学びを支える「しずく学習塾」への運営支援があります。
私たちは、年度末の助成金報告や新年度対応、教室の引越し、ホームページやチラシの更新、支援のお願いページ作成など、運営の多岐にわたる部分をサポートしています。
また、卒業パーティーの開催支援など、子どもたちにとって「人生を変える体験」となるようなイベントの実施も応援しています。
経済的な理由で学習の機会を得られない子どもたちに、学ぶ場所と経験を提供する。これは地域の未来を継ぐために、私たちができる大切な貢献だと考えています。
謙虚さと実行力が生む成長
つない堂のスタッフが「tunaidoワークショップマルシェ」の準備を進めていたときのことです。
イベントの準備大詰めで、スタッフは「今の自分の全力を出し切れ」という意気込みで取り組んでいました。しかし同時に、「世の中の皆さんは色んなことを一人でこなしてすごいなぁと、今さらながら自分の能力不足が身に染みています」と謙虚に語っていました。
この姿勢こそが、私たちが大切にしている「学びの文化」です。どんなに経験を積んでも、常に謙虚に学び続ける。困難な挑戦を通じて、自分の限界と可能性を自覚し、成長していく。そんなプロセスを大切にしています。
第5章:体験が生み出す価値の継承
船大工のように未来を航海する
私たちの教育哲学を一言で表すなら、職人を「船大工」のように育てることかもしれません。
船大工は、単に木材を削る技術だけでなく、航海の知識、船の構造計算、そして何よりも海という未知なる環境で船員と運命を共にする責任感を持ちます。
現代の職人にも同じことが求められています。技術だけでなく、経営の知識、持続可能なビジネスモデルの理解、そして社会に対する責任感。これらすべてを備えた「自律した船長」として成長してほしいのです。
人生を変える体験の連鎖
「人生を変える体験が人生を変える。」
この言葉は、私たちの活動すべてに通じています。
職人起業塾で経営者の視点を学んだ職人が、現場で主体的に動き始める。マイスター高等学院の生徒が、お客様から感謝される経験を通じて、職人という仕事に誇りを持つ。つない堂が支援する子どもたちが、学習塾で学ぶ喜びを知り、未来への希望を持つ。
こうした一つひとつの体験が、人の人生を変え、その人がまた誰かの人生を変える。そんな価値の連鎖を、私たちは地域社会の中で生み出し続けています。
おわりに
私たち株式会社四方継は、建築会社として家を建てるだけでなく、人を育て、街を育て、未来を育てることに全力で取り組んでいます。
1994年の創業から30年以上、現場で積み重ねてきた経験を土台に、職人起業塾での専門的な教育、マイスター高等学院という挑戦的な取り組み、そして地域に根ざしたつない堂の活動。これらすべてが、「人生を変える体験が人生を変える」という教育哲学に貫かれています。
建築業界は大きな転換期を迎えています。職人不足、高齢化、環境への配慮など、多くの課題に直面しています。しかし私たちは、教育への投資こそが、これらの課題を解決する最も確実な道だと信じています。
若者が職人という仕事に憧れを持ち、誇りを持って働ける環境を作る。職人が経営者の視点を持ち、社会の変化に対応できる力を身につける。地域の子どもたちが安心して学べる環境を整える。
こうした取り組みを通じて、私たちは「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」という理念を、一歩一歩実現していきます。
未来を継ぐための挑戦は、これからも続きます。